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東京地方裁判所 昭和51年(特わ)106号 判決 1976年5月06日

本籍

東京都大田区蒲田四丁目四番地

住居

東京都文京区小石川四丁目一七番一四号

会社役員

金子好夫

昭和三年二月二一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官神宮寿雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月および罰金一、〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納できないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都中野区中野五丁目六六番七号ほか五か所において、「ニユーダイアナ靴店」又は「ダイワ靴店」の商号で靴小売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を設定し、あるいはたな卸資産の一部を除外する等の方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和四七年分の実際総所得金額が四、六八〇万一、一〇二円あつたのにかかわらず、昭和四八年三月一五日、同都文京区春日一丁目四番五号所在の所轄小石川税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一、一四九万八、八四三円でこれに対する所得税額が三九一万七、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により昭和四七年分の正規の所得税額二、四八一万四、二〇〇円と右申告税額との差額二、〇八九万六、七〇〇円を免れ(修正貸借対照表および税額計算書は別紙一、三のとおり)

第二  昭和四八年分の実際総所得金額が五、五二〇万一、二二四円あつたのにかかわらず、昭和四九年三月一五日前記小石川税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が二、七四九万七、三三四円でこれに対する所得税額が一、三〇三万一、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により昭和四八年分の正規の所得税額三、〇二六万四、五〇〇円と右申告税額との差額一、七二三万二、七〇〇円を免れ(修正貸借対照表および税額計算書は別紙二、三のとおり)たものである。

(証拠の標目)

判示全般の事実につき

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、野森外二、今村隆介、金子勝美、沖長一、近藤昭の収税官吏に対する各質問てん末書

一、小石川税務署長作成の証明書

一、押収してある総勘定元帳二冊(当庁昭和五一年押第六二一号の一、二)、所得税確定申告書等二袋(前同押号の三、四)、所得税青色申告決算書類一綴(前同押号の五)

各勘定科目につき

一、大蔵事務官作成の銀行預金調査書

(別紙一、二の各番号<3>普通預金、各番号<4>定期預金、各番号<5>定期積金、各番号<6>通知預金、別紙一の番号<28>事業主借、別紙二の番号<31>事業主借、別紙二の番号<38>雑所得につき)

一、大蔵事務官作成のたな卸資産調査書

(別紙一、二の各番号<7>のたな卸資産につき)

一、大蔵事務官作成の建物勘定調査書

(別紙一の番号<9>建設仮勘定、番号<25>未払金、別紙二の番号<11>建物、番号<20>建物仮勘定、番号<33>未払金につき)

一、大蔵事務官作成の権利金、保証金、借地権調査書

(別紙一の番号<13>保証金、番号<15>借地権、番号<19>権利金につき)

一、大蔵事務官作成の権利金償却調査書

(別紙一の番号<19>権利金、別紙二の番号<21>権利金につき)

一、大蔵事務官作成の事業主貸調査書

(別紙一の番号<17>事業主貸、別紙二の番号<18>事業主貸につき)

一、野森外二作成の上申書

(別紙一の番号<20>前払家賃、別紙二の番号<22>前払家賃につき)

一、大蔵事務官作成の借入金調査書

(別紙一の番号<21>前払利息、<24>借入金、<30>未払利息、別紙二の番号<23>前払利息、<28>借入金、<32>未払利息につき)

一、大蔵事務官作成の減価償却引当金調査書

(別紙一の番号<27>減価償却引当金、別紙二の番号<30>減価償却引当金につき)

一、曾根正義作成の上申書

(別紙二の番号<25>造作につき)

一、大蔵事務官作成の未納事業税調査書

(別紙二の番号<34>未納事業税につき)

(法令の適用)

一、該当罰条と刑種の選択

判示第一、第二の各所為 各所得税法二三八条

(懲役刑、罰金刑併科)

一、併合罪加重 刑法四五条前段

懲役刑につき 刑法四七条本文、一〇条

(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)

罰金刑につき 刑法四八条二項

一、換刑処分 罰金刑につき 刑法一八条

一、執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項

(情状について)

被告人は昭和二一年ごろから靴職人として修業し、その後靴ブローカーをしたりしていたところ、昭和四〇年ごろ個人で靴小売店を経営するようになり、質素な暮しと経営手腕によつて昭和四八年までに次々とその営業規模を拡大していつたのであるが、急激な拡大に必要な資金を蓄積するため各店舗の売上のうち平均約三割をレジの打込みを操作する方法で簿外として、その簿外金員を仮名預金としあるいはたな卸除外をするなどして本件脱税に及んだものである。両年度の合計ほ脱額は金三、八一二万九、四〇〇円の多額に及び、その方法も必ずしも単純といえないものがあるが本件摘発後は深く反省し、昭和四六年ないし昭和四八年分の所得税の修正申告をしほ脱額を完納し、法人組織となつた現在も経理を厳正にすると誓つており、蓄積した資金を個人的に費消した形跡もないことなど被告人に有利な諸般の情状をも考慮して主文のとおり量刑する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 安原浩)

別紙一

修正貸借対照表

金子好夫

昭和47年12月31日

NO.

<省略>

<省略>

別紙二

修正貸借対照表

金子好夫

昭和48年12月31日

NO.

<省略>

<省略>

別紙三

税額計算書

金子好夫

<省略>

(注)2 その他所得

47年度 189,100円は譲渡所得(短期)

48年度 112,300円は雑所得

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